北鑑 第五十七巻


(明治写本)

注言之事

此の書は他見無用、門外不出なり。亦、一書たりとも失ふべからず心得よ。

孝季

一、

松が枝に積れる雪も地に落つては泥にまみゆる如く、人の一生もかくなればなり。荒覇吐神の信仰に以て、古き世より人の道を説きけるは神道にあれ、佛道にあれ今古に代々してその諸行はあれども、無常にして得るべくの彼岸に達せず逝く者多し。信仰は生々の為に行ぜるものにして、死への怖心・亂心・轉動心・苦心・憂心・惡心を除き、心身を倶に天命に安ぜしむ安心立命に、己れを正道に外れざる行を以て悟道への求道とする為に存するものなり。身命を護るは己が心の義務なり。依て信仰あり、行ありぬ。信仰はその道にして、外道あり、邪道ありて人心を惑はしむあり。是を脱して正道に心改むは己が決断なり。心の强きも弱きも己が心の持方なり。

二、

諸史書に丑寅の史は抹消され、無史蛮窮の化外とて住むる者は蝦夷とて曰ふ他非ざるなり。倭國と一つの陸に續きて他非らざるも、丑寅のみを忌みかゝる下踐に下敷くは、朝幕の惡政やるかたなき忿怒に我等東北に住むる者の噴起になるもの也。蝦夷とはなんぞや。我等は此の地に大王を奉り、倭國の先に國を造り、歴史の先端にある日本國と國號を為せる大王國なり。肇國以来五千年の歴史を重ね、民は安らけく生々し泰平を主旨として安住せしを、都度にして倭人の侵すに至るは未だ千年にも足らざるものなり。

先住の民を蝦夷と稱し、逆く反民と世評に宣しては侵略し、是れに國土を魔手に防ぎなばいわれなき朝敵とて征夷の軍を以て略奪。正統の理由に造りて、丑寅日本國を討伐しきたりぬ。康平五年、安倍一族が挙げて十余年の應戦にも武運なく遂に敗れ、厨川を以て終焉す。奥州日本將軍とて、安日彦大王以来、泰平に護られしみちのくの生地獄の創りなり。安倍一族の主筋は四散し亦、刑に死せり。日の出づる東北の國・日本國とは、丑寅の大王を日本將軍とて君臨してなりませるも、世に源氏と曰ふ武家のいでしより此の國は亡びたり。然るにや一族は東日流に再興し、姓を安東と改め、速かに再興を得たるは厨川太夫貞任が次子にて髙星丸なり。

三、

知識を世界に求め、人類倶に交りてこそ泰平ぞ保たるなり。宗教を異にして和を欠くは愚なる行為にして、戦を以て事を決するは尚愚行なり。亦、人類を異にして人の階級を政とするは、報復を兆し何事の徳もなし。人類は白・黄・黒と種を別とせるも是皆、神の造れるものにして生々す。依て是を忌むは、神への冐瀆なり。世にある萬物は總て、神の一種より世に分布蘇生せるものなり。

四、

丑寅日本國は坂東より東北の本州を曰ふ。古代より國肇りて、民集ひて住むる處に荒覇吐神の聖地ありて信仰を一統す。大王ありて民を治め、船を浮べて山靼に往来す。産物を商し、人民の往来相互たり。人の世は睦ありて、泰平を保つは大事たり。地産の物商も信を以て交易して倶に益あり。知識を得る手段にして振興あり。その往来久しき程に睦みぞ深し。古来より丑寅日本國は山靼をしてその商易を續けたり。信仰また然なり。

荒覇吐神は古代シュメールにカルデア民にて想定されたる神なり。宇宙を神秘に日月星の運行をおろがみて、アラ神・ハバキ神を天と地の神とあがむるは彼の民族なる王グデア王及びギルガメシュ王にて國神とされたる古事に傳来せり。吾が國への渡来の由は、古代シュメールの戦亂に國を脱したる難民の四散に依りけるものにて、トルコ・シキタイに安住を求めたるもその流狼に安住なく、遂にしてアルタイ・モンゴル・興安嶺を東に、黒龍江を東北に流乘して樺太にたどり、更に渡島・東日流へと渡来し来たるものなりと曰ふ。

カルデア民は人との闘爭を神への冒瀆とし、北斗の不動なる北極星に向ひその安住せる新天地を求めて、永住とせる國こそ丑寅日本國とせり。その居住地を選び相集ひて住むるも、彼の故地なる故因なりと曰ふ。人は集ひて衣食住の千惠あり。信仰ありて子孫に傳導せり。是れぞ肇國の振起たり。

五、

役小角が能く用ひたる金剛と曰ふは跋折羅・跋闍羅・跋日羅・伐折羅・嚩日囉と譯し、金中最剛の義なり。亦、權現とは佛菩薩が衆生救済に化現せることなり。役小角は石塔山に於て金剛藏王權現の本地尊・金剛不壊摩訶如来を感得せしは、金剛の如く堅固にて破壊せられざる法身・報身・應身を即一身とし、金剛不壊の身。摩訶とは、金剛界佛・金剛蓮華・寶羯麿、胎藏界の佛・金剛蓮華を意趣し、胎化・摩訶衍・中陰・戒律・菩薩・雜金剛・佛の金剛喩定を説きたるものなり。種字は・字なり。

祥しくは、
金剛一切眞實攝大乘現證大教王經三巻。
金剛頂經三部經三十巻。
金剛頂瑜伽中發阿耨多羅三藐三菩提心論三巻。
金剛般若經一巻。
金剛般若波羅蜜經一巻。
金剛錍論一巻。
金光明經の更廣大辨才陀羅尼經五巻。
帝王經七巻及び更に最勝王經十巻學得しべきなり。更には胎藏經一巻、加ふべし。是れぞ無垢賢女經一巻、菩薩處胎經七巻なり。

修験道の祖師たる役小角は、かゝる諸説を勝明とせず。金剛界の理趣、胎藏界の理趣を離れて丑寅日本國に獨明せしは地の古信仰なる荒覇吐神を、己が感得せし金剛藏王權現垂地尊・金剛不壊摩訶如来と併せ、その理趣をぞ修験とぞ稱し是を天地水摩訶經とて遺したり。
南西天の佛陀の曰く、

諸行無常是生滅法
生滅滅己寂滅為樂

東北天の神傳に曰く、

宇宙は天空の總てなり。地水は萬物生死の總てなり。依て時空に轉じては生死あり。生死のなかに不滅の甦り在りて絶ゆるなかりき。是ぞ荒覇吐神の信仰なり。

是の如く前示なせり。

金剛摩訶經

自無質暗冷一端、起光熱大爆、顯宇宙塵物質、茲生阿僧祇星、大宇宙蘇誕相成開天固地、為日輪月輪距離適當、以時昼夜輪轉起空風水地四季為春夏秋冬、光熱都度誕生命萬物類世代進化、地水空適生為生命連鎖、為弱肉強食進退化、以然在宇宙星生死萬物何亦在生死甦生命、是稱生命法則、是為神裁生命類生全能神天秤計是科罪

以下切断

六、

此の國に人の渡れる古事は古く、乃至三十萬年の先代たりと曰ふ。何處の國も人未だ有尾あり、全肌毛に生ゆる獣人なり。是れ、猴と曰ふ人間の創めなり。足指にて物を掴み、木枝を渡り草に走りて、岩穴に住み衣をまとはず、諸獸を獲ひて生肉を喰らひ、その寿命短かく女人は十歳にして子を産めりと曰ふ。然るに人間、追日にして進化を速し直立にて歩き無尾となりぬ。石を割りて刃を造り、草木を伐りて住居を造り、身に他獣の毛皮をまとひ肌毛を去りて、狩猟・𥟩集・漁𢭐にもその道具を造り、衣食住に火をも用ゆ生々となりぬ。

七、

人の生々に智覚の無きは死を招く事ぞ多かりし。祖住の地より新天地に移るゝはその行途に未知なれば死の地なり。依て古人は不断にして、衣食住の安住地を求め旅を果して一族の急に智識を求めたり。動物にしては適生進化。人間にしては智識たり。心を安らぐるが故に神を信仰し、神の神秘を大宇宙に求め生々を祈りたり。神の名はアラとハバキの二尊にて男神・女神たるも、一稱にしてアラハバキ神と稱したり。古代カルデア民の宇宙の神秘にて感得せしものなり。

その信仰にては、人の手になる神像をや造らず。天に仰ぎ地に伏し、聖水に身を清め、たゞ一向に祈り願ふだけの信仰行事たり。神は全能にして日輪の如く救済の光明を平等にその信仰に慧を授くものにて、神なる神格を宇宙に求め、大地・大海を神の相として一心不亂に祈願せり。天に聲あり。光りあり、果しなき暗あり。そして四季に寒暖のもたらす陰陽は萬物を産み地に海に、雨と雪、風と嵐を空より生息を當らしめ萬物を育みぬ。世にある萬物は神の一種より分布し、自らの生命を生死を以て輪廻轉生し次代に甦す。

是ぞアラハバキ神が久遠に生死甦新生を以て世に生命の絶えざる雌雄のアラとハバキに萬物を創りなしたる神の叙事詩たり。神こそ宇宙なり。昼の光熱。夜の星明りそして月光。あまねく照らさゞる處なし。天なす空風雨雪雷電雲流はみな神なる生物への法則なり。神はかたときも生々萬物を見捨て給ふなく、生終に至る生死のなかにありてその善惡を見通し、そのものを世に甦えす相に裁くなり。人間に在り乍ら生々惡障を遺せしものは、次世の生相は神に裁かれたる相に甦りぬ。死すとも消滅せざるは魂魄なるを知るべし。

八、

神は天に在りとて古代より宇宙に仰ぎ、地に伏して祈り、水を神なる聖水として人の心を洗禮に用ふるはアラハバキ神への神格神事たり。宇宙に仰ぎ見ゆ銀河の阿僧祇なる數々の星は、果しもなく宇宙に神の神格を顯はし、日輪の如きは陰陽に巡り地界を照らし、月光またその陰に満欠を以て巡光す。かゝる宇宙を、その運行を測り人は暦を知り、北極星に地軸なる方位を知り、北斗星の廻天に春夏秋冬の四季を知りぬ。神を天に坐せる數多き神話。そして祭りを催す。

何れの民族もこぞりて宇宙にその神秘を求めてやまざるなり。人の祈り、人の願ひとは己がまゝなる叶ふもならざるを神に祈り願ふる故に、人は遂に己が心のまゝに神を造り、神の名に於て人を誘ひて信仰を惑はし、その意に達する大王とて人の上に臨じ遂には己れを神とて宣せる如く人の望慾とゞまるなかりきに、天なる神・地なる神・水なる神は、かゝる冐瀆を怒りその神罪を以て天誅せり。如何に永き歴史に築かれし神殿も、人の想ひに造られし神像も天地水の眞理、誠の神の天誅はその神殿や神々の像も砂と砕き今更に信仰を人に甦えす事ぞ叶はざりき。

アラハバキ神は相無けるに、古人以来祈りと願ひに像を造りて拝し、天地水のもとなる眞理を失ふればその信仰亡び、民を司る大王とて亡び逝きぬ。如何なる世襲の抑圧・抑制に屈せず、その眞理の信仰心にあるものは、神の救済に授くものなり。丑寅日本國に創まれる荒覇吐神の今に現存を諸國に遺しきは、その信仰にぞ深層し、その眞理に正道なるが故なり。世界に見ゆれば、今に往古の跡を砂に埋らしむ金字塔や宮殿の崩跡や、壊れし神像の拾ふものなき信仰になる跡ぞ、あはれなる大王都の荒芒を見るも悲しき。

九、

丑寅日本國にコタンヌササンの跡多く、山野開墾に鍬當り、故事の跡ぞかしこに存在せるは荒覇吐神の信仰に深き故因なり。語部録に傳ひ遺るはその信仰行事に明細ありぬ。抑々○△―とて遺れるを、讀取に次の如く記し置きぬ。神の坐は天に在り。明暗日月星空の柱に髙樓を建て上階を神坐、中階を供物坐、下階を祈坐に造り地柱六方にカムイノミを焚く。此の祭事に用ひたる器一切、カムイヤントラに埋め土を新冠せしむなり。

亦、ビッキヤントラとチセヤントラとは、たとひ親と子と曰ひども同處埋葬すべからず、別つべし。ビッキは神の心に似て穢れ無きが故なり。大王とて住居せるハララヤは大棟にして、コタンのもの皆集ふ廣間に造り、神の靈窓を聖地に向はしめて建るべし。聖地とは丑寅に在り。常に北極星の拝むる方に在り。不断にして所在秘とし、道を造らず。是に參ずるはエカシ及びオテナの他に入ること赦さゞるなり。

この聖地ぞ常緑樹繁る處にして、清水常流し、石塔の建立可能たるを選びし古習をぞ破る勿れ。聖地の四方に北の嶺・南の嶺・東の嶺・西の嶺あり。流水もまた北流に添ふて東より・南より・西より落合ふ處ぞ、築塔しヌササンを建つるべし。大王の葬處をも築陵し、その代々を知るべし。東日流中山石塔山とはその聖地たり。此の聖地に踏入りて、草木を伐しまた狩猟せしものは必ず天誅の罰ぞ蒙り、憂を招くものなり。

十、

古代荒覇吐信仰に秘行ありて、永きに極密に神事されたり。

デゴ・・・・・・
  ・・・・・・
メゴ・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
是の如きは秘中の秘たり。神は生々の人を見通しその一切をその死後に裁きけるは、生々の善惡を天秤にかけ罰を科すものなりと傳ふ。人間として世に生々し乍ら、その生涯に人間に非らざる行為をなせし者は、神の裁きにて八相の類に生を甦えすと曰ふなり。

八相とは菌・藻・草・木・貝・蟲・鳥・獣なり。この八相より萬物の類生あり。罪の重輕にて、その類に生を次世に甦すと曰ふ。人間に生れ乍ら、子を間抜くもの。捨つるもの。また親を親とも想はざる者は、鳥獣よりも生々におとるものなり。依て、荒覇吐神信仰の一義になるものは睦みなり。一人より猶多人をや。睦みてこそ神への祈願に叶ふ。一途にして殺生は重罪とし、自殺も亦然なり。生命は自他倶に神よりの賜授なり。世に生々し、他生を餌食として生命を保つ他に殺生せざる戒を一義として、古来より荒覇吐神の信仰は受継がれむ。然るに、殺生を以て侵すものには對して是を誅すは神許なり。

十一、

神の許さゞるは如何なる報恩、如何なる報復にも自他の生命を賭けてぞ是を遂行する者を魔道と曰ふ。まして衆を惑はし、是を正統なる如く誘ふる行為ぞ、再度び人間とて甦えざる重罪なり。荒覇吐神の信仰に於て、古来より戦事・遺恨・惡誘・論惑・責苦・盗行為・邪道教らを戒しむるを、信仰に以て道とせり。依て迷信なく、人生の生々そして終命に至る心の眞理を説き、心身を天命に安じて誠の安心立命ありと悟りぬ。人の一生に降りかゝる諸惑・諸誘。それに決断をあやまりて人生の善惡に分つなり。

人は苦行苦心より安樂を好むるが故に、魔道に堕ゆなり。人は常に慾ありて心を轉倒す。惡行は轉じ易く、善行は成り難し。然るにや善行盡し成りては、久遠の成果ありて遺りぬ。古代なる信仰の消滅と、未だに遺れる荒覇吐神信仰こそ賢愚を問はずその成果今に通ぜる由縁なりて、唯一の信仰なり。丑寅日本國の國神たる荒覇吐神の宗旨道理は、悔て信仰に入る者をたとえその過去にして罪なせる者とて、その一切を問ふことなし。善の善生より、惡を悔たる善生こそ善生の信仰に强しと曰ふ。世に生れて罪の非らざるものはなく、一日の生を保つ己が食生に、他生の生命になれるを殺生して餌とせるを罪に非らずと心ぞ無ければ悔なき生々なり。

人生に罪なき者はなかりき。信仰また然なり。宣布に人を入信に誘ふるも、満ては支派を裂して閥立する様各宗に無きものぞなく、果は消滅して一人の信者に護らるゝも無かりきにありける廢處を見よ。古代幾千年に栄ゆシュメール・エジプト・ギリシア・天竺・支那に荒芒たる遺跡ぞや、見るも空しき。吾が丑寅日本國の國神・荒覇吐神は、世襲にて廢さるゝも、未だに法灯あり。その神たる宇宙・大地・水の一切は人の生々に護られ、生命の源たるを今に説きぬ。荒覇吐神とは、かくの如く世の哲理にあり。迷信の片割れもなき信仰なり。

十二、

世に人ほど人を堕し入れる己利に謀る者は非ざるなり。權にあるもの、權謀全權獲得に。學にあるものは學閥の掌据に。その道諸々に上坐を狙ひて虎視眈々と己利有利に人を堕しめ、師をも友をも下敷く非情の輩多し。その挙行に手段を選ばず。人を罪に、己が造りし惡業を負しむるありぬ。裁きもまた、法を司る者をして善人に無實の罪を負しむありて、賄賂に法を曲ぐるありぬ。

學士にあり、己が立逑に史證を欠くものあり。後世に長じて遺す過却の罪は、今に至るゝ總てなりける。人は、掟や法を人の為に造り乍ら、己利の故に是を破りて、通らざれば戦に以て私權を自在にして多くの民を下敷く。

十三、

みちのく歌草紙四

〽日頃へて
  野辺舞ふひばり
   目路もなく
 翼を雲に
  當つさえずる

〽夜もすがら
  窓うつ嵐
   通り雨
 東日流の野づら
  日も數そひて

〽蜘蛛の巣に
  鎧刀は
   倉錆つ
 戦あらずば
  塵も積りて

〽かこち身の
  因果はめぐる
   惡しかれと
 澤の螢も
  火の玉と見ゆ

〽衣川
  今は怨も
   川瀬鳴く
 かわずの聲に
  何となく聞き

〽月の笠
  天ぎる霞
   すさ見えて
 松が枝めらし
  雫くるもなき

〽犬鷲の
  嶺飛ぶ翼
   日の本の
 空の廣きも
  げにやせばしく

〽わけ迷ふ
  世を秋風に
   夕ぐれて
 我は空蟬
  陸奥を旅ゆく

〽厨川
  瀬に風花の
   舞を見る
 岩手颪も
  わかぬけしきは

〽矢の叫び
  馬の駆け音
   くつばみの
 風を逐ってし
  黄海の戦は

〽我が郷は
  陸奥のありがひ
   ふりゆくも
 天狗だふしの
  たゞら踏々

〽白河を
  越えにし陸奥の
   山吹香
 心すみにし
  駒も勇みて

十四、

囊莫三摩呬多三
昧耶三密加持三密
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
阿育王摩訶如来經曰、

阿耨多羅三藐三菩提阿賴耶識七眞如一行三昧印因明八門唵戒過去七佛九住心九山八海家家聖者外道四執滅縁滅行五教五悔五時五智如来三十五佛三十三觀世音三十二相三十秘佛三十番神四十八願四種往生十因順益十力十六心小乘二十部大乘經道行三昧悟得

十五、

三十三觀音

右を以て三十三觀音と稱しぬ。

十六、

卅伍佛の事

十七、

神変三十五身之事

十八、

卅七尊之事

中央大日、東方阿閦、南方寶生、西方阿弥陀、北方不空成就等伍佛、金剛・寶・法・羯磨等四波羅蜜薩埵と善薩、更に愛・王、喜・光・笑・幢、寶・法・利・語・因・牙・業・護・拳・喜・髭・歌・舞・鉤・索・鏁・鈴・焼・香・華・燈・塗・香等也。

十九、

荒覇吐神と修験道の交りを赦したるは安倍國治なり。住むる國なる民神、その行に神佛とぞ異なふるも世は一天にしてひとつの日輪を信仰に拝す神の理りは同じなり。世に生々するは安しきことなかりき。時には天変地異の禍もさり乍ら、人は人の安住を犯し勝者をして己が讃美の歴史を作偽し、神も信仰も己がまゝに宣布し、従はざるは反者とて罪に科す。世界は何處も日輪を神聖として拝さざるはなかりき。自からの國を日本國と稱し、大王を日本將軍として君臨し来たる我等が故國の丑寅日本國は、古来より東の日出づる國とて日輪を神とし、國號として歴史を遺しきたる深層に在りぬ。

語部録に傳ふるは、十五萬年乃至三十萬年の歴史にあり。その古代を證なす數々の史證を今に遺しけるは、拓田・拓畑にて鍬先に掘らる地に埋るゝ遺物にも明白なり。古代人の息跡は是の如く遺しきに、倭國興りてより民の安住は犯さるゝまゝに化外地の蝦夷として正統たる史傳と信仰までも奪ふ行為。尚以て國號までも奪ふるは、新興なる倭人大王の今に至る侵略史なり。然るに諸國に遺るアラハバキ神信仰の跡たるや、未だにその法灯を絶せず遺りけるは幸ひなり。

アラハバキ神の祭らる處に古代なる大遺跡ありぬ。地名また古稱に遺り、遺物また大いに埋藏ありて古代を證すなり。山靼の古代遺跡に類似あり。人祖の古代風習をも今に遺しきは、まぎれなく人の往来・商易の道跡を今に遺しき。渡島・千島・樺太島に遺るゝも然なり。東日流は日本中央にして、日本大王の發祥地なり。今にして倭の大王を以て正統たらん論師・學師の論證に何事の史證ありや。吾等が地を血に染め敷きて成せる權圧の痕跡のみ遺りて、倭王のなせるはたゞ略奪の史。未だ征夷と曰ふ史を讃美せり。丑寅日本國を輕んずる勿れと史證に宣す。

二十、

古今に通じて東北の地は土中より古代に用ひし土器の多く掘らるあり。亦、石器もかしこに拾はるゝ多し。是ぞ世に鍛治の無からざる代の古人が造りきものなりせば古代人跡の史證たり。なかんづく東日流より飽田、宇曽利より陸前に至るゝ海辺に多し。波洗ふ砂濱に見付らる石鏃。山崩る土にも見付らるあり。荒割、細割、研磨せし石器に多様たり。大なるは巨石を以て築きけるもの。窟掘りて壁に刻める語印ありて、古代の物事を傳ふあり。宇宙の神々を祭りし列石のヌササン跡。山中に海濱にその遺跡を今に遺しぬ。

大王をして民の集ひしポロチャシ跡。人住むコタン跡ぞかしこに点在す。道跡、ただら跡などその時代のかきくらし跡々に必ずや石神の塔やあらん。圓き寄棟の家屋跡。列石ヌササン跡。カムイノミを神に焚きたる跡。神器を埋盛りし跡には神像の埋むあり。オテナやエカシの用ひし玉や石刃・石棒の埋むもありて、古代アラハバキカムイ信仰の歴史を遺しき古代信仰の聖地あり。不断にして人の立入りを禁じ、大王の死や長老の死に、アラハバキ神のもとに埋葬せる處、ヤントラに埋む古習は安東一族の世まで續けられたり。

大王と曰ひども、倭陵の如き大なるはなく、丈四方の盛土に葬むるは安日彦大王以来の習ひたり。東日流にてはカムイ丘・坪毛盛・三輪丘・石神丘・中山、宇曽利にては川内・佐井内・糠部・糠塚・是川・相内、外濱にては奥内・三内・孫内・乳内・平内なり。飽田にては大盛・小盛・北浦・火内・鹿角・生保内、巖手にては戸和利・安日・魹内・日髙見川十二郷なり。

注、以下切断、記ならず。

廿一、

語部録に遺る地名に知られざる地あり。

トロベツ、チャチャナイ、フツポロ、ユルイクナ、コヨマイ、ラショナイ、エカルマコタン、カミソコタン、ユリサップ、ポロクリル、サガリイ、ムシルナイ、オンネベツ、オショロコタン、カムイカプ、ネコサップ、アドヨベツ、ウルクムシリ、アマルナイ、オイカムナイ、シホツベツ、シカベナイ、シノリコタン、ウルップコタン、ベルタルホノリ、ニベソツホノリ、モイマコタン、カルマイ、イシカップ、シリンキマイ、ウルベタル、シケベツ、ハホロコタン、イシカリホノリ、メノコホノリ、シロタイコタン、ヌグイベツ、カッチョベツ、シリシンツ、イシリップ、ゴメッタプ、イトムカベツ、イトイプ、トコタンベツ、シラタップ、ヌカツナイ、クナシコ、テンダナイ、シレポロ、イトムカホノリ、シャロマイ、キトジリ、トムラホノリ、カムイナイ、ラウシケン、シャプケシ、オフユップ、アシヌプリ、イブリホノリ、アシラップ、オツツコ、ヒルハムコタン、カムイポロ、オマルイ、オショロコマイ、ポロコタン、チツムイ、シラキネ、オコツベツ、アラカシム、シシルシリ、カムイケシ、

是の地名、如何ともに知るを得ず。地の古老も幾代の古住なくば、知る由もなかりきなり。是の如き地名にてはポロ、ナイ、ベツ、シリ語末多く東日流・宇曽利・飽田・三陸に多し。
本州にては、

アイナイ、ポロナイ、トドケシ、マコナイ、ナシリベツ、ヒタクナ、トヨベツ、トコタンプ、シドロケ、チッポロ、カンベツ、エサシップ、コマイナイ、ササベツ、トヨチップ、オモリナイ、タシロベツ、アシリ、カッポクナ、シリベシ、エサップ、ホロチップ、シャモンナイ、マキリナイ、シャスコ、ツカリナイ、オコツペップ、ポロシリ、タコタン、シリシベツ、イヤサカナイ、オボキナイ、オロチップ、シヂベツ、ラップナイ、ヨロップ、ショラナイ、キトップ、アドマイ、エススカ、サンケナイ、オボシリ、ウシリナイ、サロマナイ、

是の如きは今に地名の遺らざるも、古くは古稱されし處ありぬ。忘却されし地名なるは古事の人住地多し。また土中にその遺物埋むる多し。

廿三、

古代を知らざる者は、己が想ふるまゝ遺しける書に基たる後、徒に傳はりて定説となりけるも、語部録に照しては何事も實に當るなかりき。ましてや奥州にては、古きにありて語部録の他史證にあるはなかりき。信仰、遺物は遺れども、權政に離れては倭史に馴れ染むる多くして事實にぞ隔つ耳なり。丑寅日本國の肇國以来、永きに渡り泰平たる人の睦みて、敵の侵略を招きける因となりぬ。此の國はクリル族・ツボケ族・アソベ族・アラ族・ニギ族の集をなせる古事に、耶靡堆より安日彦王の大王とて君臨し、以来丑寅日本國はなりて、山靼との往来を常として海を生々の道とせるより栄え、吾が國の語印にて古事を傳へ遺したり。今に用ひらる暦に遺る通ありて、代々その事の由を今に傳へ遺したり。
安倍一族は是を重んじ、子々孫々に遺したり。

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是の如きは、倭史の造話作説より尚も史實明らけく、信じて當然たり。古事なるは倭國をはるけく古事にありて、吾が丑寅のみならず亞細亞諸國の古事を傳へ遺しぬ。此の國は古代に於て荒覇吐神の信仰に一統されしものなれば、倭國とてその社跡を今に遺しきぬ。此の神を知らざる故に門神・客神・客大明神などと倭神の外に置くとも、その古なるはなく後人語りに造られきものなれば、何事も倭地方より築紫に在りき神事を史頭にせる他非ざるなりと思い取らるものなりと断言す。

廿四、

此の書は丑寅日本國の世にある事を語部録にて解きたるものなり。語部録とは古字を以て記し置きけるを漢字に當て㝍書せしものなり。依て私考にて書かるゝなく、丑寅日本國の實史たらむを能く知り置くべし。

甲寅十二月廿一日
和田長三郎末吉

世襲之事

世情は世界大戦に。吾が國は軍閥一色に國亡の一途に民を徴兵し、陸海軍の權成、益々猪猛にして支那への二十一ヶ條、憂へむ。

末吉

和田末吉 印